終末的治療法「接着芯の総裏張り」
1枚接ぎにつき、2,100円〜
長い時間を経て、穴があき、縫い目がほつれ、生地がもろくなってしまったぬいぐるみは、どのように治療すれば良いでしょうか。
新しい生地に付け替えてしまえば丈夫に生まれ変わりますが、新たな素材に換えてしまうということは、一体のぬいぐるみがその生涯を終え、新たな一体が生まれるに等しいことであり、抵抗感を持つ方も多いと思います。ぬいぐるみの治療に当たる私たちもまた、その抵抗感を強く感じており、例えボロボロのぬいぐるみだとしても、できるだけ現在の素材のままで延命を図りたいと考えております。
こんなことを書いては怒られてしまうかもしれませんが、ボロボロのぬいぐるみを解体し、型紙をとり、新しい生地で作り直す「作業」は、手間の面だけ考えると、穴をふさいだり「治療」をするよりも遥かに簡単です。うまく行かなければ、また生地をつけ直せばいいのですし・・・ ただし、それでは、やはりこれまでの面影は分からなくなってしまいます。
そこで、あまりにも傷みがひどく、ほぼ全体的に治療が必要なぬいぐるみは、究極的な治療方法として「接着芯の総裏張り」という方法で行ないます。
料金は生地1枚接ぎにつき、2,100円で、料金的には服を作るのと同じ感覚です。一般的には、穴ふさぎ代+伝線治し代+「接着芯の総裏張り」になりますが、「縫い直し」の料金は、除外されます。
一般的な流れはおおむね次のようになります。
- オフロに入り、必要に応じてビ白・スカ湯に入ります
(多少、穴やほつれが増えることもあります)
- 治療箇所を決めて、ぬいぐるみの縫い目をすべてほどきます。
- 穴・伝線を治療して、表面上の傷みを修復します。
(これだけでは生地の劣化による脆さ・弱さはそのままです)
- 解いた生地の型をとり、同じ型の接着芯を切り抜いて生地の裏に熱で圧着させます
- 接着芯の上から、生地の裏側をぐし縫いして生地全体を補強します
(作業の性質上、全体的に多少縫い縮まります)
- 元の形に生地を縫い直します。
- 綿を入れ、なめらか温泉で毛並みを整え、目鼻の調整をします。
「接着芯の総裏張り」は、文字通り、からだ全体で行なう必要があります。というのは、生地がかなり経年劣化しているため、後で一部分だけ修復しようとしても難しくなることが多くなり、その後に積算される治療費が膨大になることがありますので、部分的な傷みでなければ、全体を一気に治療するのが通例です。
ときどき、「私が死んだら、ぬいぐるみを一緒に棺桶に入れて欲しい。だからそれまで延命して欲しい!」という願いを耳にしますが、ぬいぐるみが朽ちていくことのほうが早い傾向にあるようです。接着芯の総裏張りは、その最後の願いを叶えるための最終的な手段になります。
治療後は新品のように丈夫になるのでしょうか?
この方法は究極的で最終的・終末的な治療法ですので、治療後はこれまで以上に安静にして頂く必要があります。決して新品のように丈夫なものになることはありません。どんどん穴が開いたりほつれたりすることをストップし、安静にして現状の姿を維持することが主な目的です。
またオフロに入れてあげることはできますか?
基本的には難しいものとお考えください。入れたとしても、新たな穴やほつれが発生する可能性があることに留意する必要があります。
穴が広がって代替え生地がありませんが?
穴が広がってしまい、代替え生地がなく、接着芯を裏張してもその部分の生地が欠損したままの場合でも、接着芯のままにしておくことができます。体型だけを元に戻すことができるものとお考えください。
ハゲランスはできますか?
小規模(ハゲレベル6〜7以下)であれば、接着芯の部分にハゲランスをすることができます。
服を作るときの料金とはどう違いますか?
服を作るときは、1枚接ぎにつき、立体裁断・型紙おこし700円+仮縫い700円、本縫い700円=2,100円になりますが、解体したぬいぐるみは、それそのものが型紙のようになりますので、解き+接着芯裁断700円+ぐし縫い700円+本縫い700円=2,100円という考え方になりますので、計算方法は違っても料金は1枚接ぎ=2,100円というのは変わりません。
では、せっかくバラバラにしたので、型紙をとってもらえますか?
あらかじめぬいぐるみを解く前にご相談ください。その場合は、1枚接ぎにつき700円加算になりますが、同じ大きさになる部分や左右対称となる型紙の数は数えません。例えば2枚接ぎのオミミの場合、左右対称なので通常は型紙2枚で済みます。また、1つのオミミでも前後で同じ形の型紙の場合は1枚の型紙で済むことがあります。
ただし、いずれにしても「後で型紙だけ作る」ことは無理なので、型紙を作りたい場合は、あらかじめご相談ください。通常は、ご希望がなければ型紙を起こしません。
型紙は役に立つのですか?
当店ではやりませんが、型紙があれば同じ形のぬいぐるみを作ることができますので、型紙はぬいぐるみのDNAのようなものになります。
また、型紙があれば部分的に生地を付け替えることも容易になり、治療をスムーズに運び、できるだけ原寸のまま復元することができます。ただし、それ以外には用途がないため、必ず役立つとは限りませんが、型紙をとれるチャンスはとても限られているために、このようなサービスを行っています。
過去例がいくつかありますので、十分にご検討ください。いずれもこれ以上の治療は無理なので、接着芯の総裏張りにさせていただいたケースです。
年代にもよりますが、クマのファンファンの生地がかなり弱りやすい素材であることがよく分かります。
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